「自分なりのルールや習慣があって、それを変更されるとパニックになる」「気に入った遊びや行動を繰り返す」といった「こだわり行動」は、自閉症スペクトラム障害(以下ASD)の子どもの特性としてよく見られるものです。
しかし、ASDをもつ中学生(青年前期)と関わる中で、一般にASDの特性と言われる「こだわり行動」とは少し違った特性が見られることに気づきました。
今回は、私自身が感じた青年期における「こだわり行動」の特徴とその対応についてまとめます。
青年期における「こだわり行動」の特徴
私自身がASDの生徒と関わる中で見えてきた青年期における「こだわり行動」の特徴は以下の3点です。
①同じこと・分かりきったことを何度も聞く
②ゲームなどで1番にならないと不機嫌になる・怒る
③間違いを受け入れられず引きずる
一般的に言われるASDの「こだわり行動」の特徴
「こだわり行動」はASDの診断基準となる行動特性です。それは脳機能に由来するものであって、心理的な要因によるものではないとされています。つまり、育て方やしつけ、養育環境に原因があるわけではありません。
ASDの「こだわり行動」の特徴は主に以下の3点に区分されます。
①変化を受け入れられない
②同じことを繰り返す
③新しいことや環境・経験に対して拒否反応を示す
ASDをもつ人は一般に、自分なりのルールや習慣があるとされ、それらが変更されるとパニックになってしまう傾向にあります。また、気に入った遊びや行動、刺激を延々と繰り返したり、体を絶えず揺すったり手をひらひら動かしたりといった単調な動きを繰り返すなどの反応を示します(「常同行動」)。新しい環境や見通しのもてない状況も苦手で、その場にいることや集団の中に参加することを嫌がったり拒否したりすることもあります。その他にも、特定のものに異常に執着(例えば、電車の種類や名前をたくさん記憶している等)したり、食べ物や衣服にこだわったりすることも特徴として挙げられています。
ASDをはじめ各種障害については教員養成の段階から学ぶため、ASD=「こだわり行動」が見られるという特性があることは理解しているつもりでした。その一方で、「こだわり行動って、具体的にどのようなものなのか?」「どのように行動に現れてくるのか?」という漠然とした疑問もありました。発達障害等について書かれた文献にその具体例が示されていることも多いですが、いまいち実態が見えていませんでした。
青年期に発現する困難さはあまり注目されていない?
ところが、実際に中学校の特別支援学級で青年期に突入したASDの子どもたちと関わる中で、文献等でよく言われている特性と実態にはややギャップがあるような気がしてきました。
その気づきのきっかけは先輩教員の一言でした。
冒頭で、ASDの生徒と関わる中で見えてきた青年期における「こだわり行動」の特徴を3つ取り上げました。そのうちの一つ、「③間違いを受け入れられず引きずる」という特性が非常に強い生徒に出会いました。その生徒は比較的知能が高く、自分の学年よりも上の学年で習う漢字も難なく読み書きできるレベルでした。そのため、本人もそこは自信を持っていました。ところが、ある漢字が他の漢字と合わさることで読み方が変わるといった場面に遭遇した時、「この漢字の読み方は○○のはずなのに、どうして違うんだ!」と突然怒りだしました。怒りが落ち着いた後は「自分は失敗したのだ」というふうに解釈し、何時間も落ち込んでしまうということがありました。
その生徒には知的な遅れや情緒の不安定さもあったため、障害の特性から感情をコントロールできずにいるのではないかと初めは解釈していました。しかし、その時の様子を見ていた教員は「彼は本当にこだわりが強いね」と口にしました。その教員の解釈は、間違えたことや失敗したことが悔しくて感情のコントロールができずにいるのではなく、「この漢字の読みはこうだ」という本人の中の認識がある種の「決まり」のようになっていて、そこから外れる状況に陥った時に「ルールが変更された」と感じパニックになってしまうというものでした。
もちろん、障害の程度や子ども一人ひとりの特性によってこだわりが発現する度合いは変わってきますし、この解釈が絶対ということでもありませんが、こういった形でこだわりが現れることもあるのかと実感した瞬間でした。
ASDは1〜3歳の間に発現すると言われています。「自分なりのルールがある」「行動パターンが決まっている」「特定のものを好む・繰り返す」といった特徴がこの時期に見られたらASDを疑う、その判断基準とされています。既にASDの診断を受けているであろう児童期・青年期になると、彼らの生活の中心は「家庭」から「学校」に変わっていきます。集団生活を送ったり学習を進めたりする上での困難さもおそらく経験することになります。ですが、その学校生活や社会生活における「こだわり行動」の特徴やその対応方法があまり取り上げられていないように思うのです。
私たちが文献等でよく見かけるASDの特徴というのは、障害が発現する幼児期に主に見られるものが中心なような気がします。障害の有無を判断する時期に見られる行動の特徴がフォーカスされがちで、その後の段階の特徴はあまり注目されていないように思います。これはASDに限らずその他の発達障害にも同様のことが言えます。一般的に言われている特性と実態にギャップや違和感を感じたのは、ここに原因があるように思います。
本人の自尊心を傷つけずに対応する
「こだわり行動」への基本的な対応方法としては以下のものが挙げられています。
・こだわりを完全になくすのではなく、その行動を段階的に変化させる
・あらかじめ見通しを示して行動の切り替えをしやすくする
・食事や衣服へのこだわり・苦手には段階的にアプローチして徐々に変化に慣れさせる
これらはASDに限らず他の発達障害にも共通する対応で、特別支援教育においては常に意識して行われていることです。そこから更に一歩踏み込んで、青年期のASDの子どもたちへのより良い支援策がないか検討しました。
中高生は子どもから大人へと成長していく、心身ともに非常にデリケートな時期です。この時期の失敗経験がトラウマとなり、その後の人生に影響するということは障害児でなくともよくあることです。その多感な時期に、本人の自尊心を傷つけることなく、障害による困難さ、つまり「こだわり行動」に縛られている状態から解放してあげることが求められます。
【同じこと・分かりきったことを何度も聞く】
「今日○○さん、学校お休みだね」「今日の5時間目は数学だね」など、分かりきったことや事実、目に見えて分かることを教師に繰り返し聞く生徒がいました。最初のうちは丁寧に反応していたとしても、忙しい時やあまりにも何度も同じことを聞かれると大人もだんだんイライラしてきてしまう…場合によっては「また言ってるな」と思いながら無視することもあるかもしれません。
このような質問の繰り返しは「こだわり行動」の1つであるとともに、その子なりのコミュニケーション方法なのではないかと捉えています。本当は先生やクラスメイトとお話したいけど相手に合わせた適切な話題を切り出すことができない、クラスメイトよりも大人の方が関わりやすいというのも障害の特性です。私は毎回の質問に「そうだね」「お休みだね」「次は国語だね」など、手短でも何かしら言葉を返すようにしています。「また言ってるな」と思って放っておくと、かえって頻度が増したことがありました。手短に反応するとともに、別の話題に切り替えたり、他の子との会話のきっかけをつくってあげたりすることで、教師に対する一方的な関わりから、生徒同士の関わりになるように配慮しています。
【ゲームなどで1番にならないと不機嫌になる・怒る】
ゲームの勝敗ばかりは自分の力ではどうにもならないことが多いです。でもそのことを頭で理解したり結果を受け止めたりすることに困難さを示します。悔しがったり不機嫌になったりしつつも、時間の経過とともに落ち着きを取り戻す子が多いですが、時に爆発的に興奮したり、大声を上げて泣いたり、怒って自分自身や周囲の人、物に攻撃する子もいます。そういう子たちを見ていて思うのは、最初のうちはゲームの結果に納得がいかなくて感情を爆発させているが、興奮している・大声で泣いている・怒って攻撃的になっている自分自身に混乱してしまい、感情の爆発が止められなくなっているのではないかということです。
そこで私は、なぜこういう状態(興奮している・大声で泣いている・怒って攻撃的になっている)になってしまったのか、その理由や状況を言葉で説明するようにしています。「上手くできなくて悔しかったから泣いているんだよね」「勝てなかった自分が嫌で、自分のことを叩いているのかな?」など、本人がパニックになって言語化できないでいる心の内をこちらが代弁しつつ、その気持ちを受容し、共感的に受け止めていることを言葉で伝えます。その上で、ゲームのルールを再度説明し、ゲームの場合は運で勝敗が決まることもあるということや、物事が上手くいかなかった時の気持ちの落ち着け方などを説明します。
怒ったり暴れたり、一度パニック状態に陥ってしまうと、周囲の大人はその状態を落ち着かせることに意識が向きがちです。しかし、ASDをはじめ発達障害をもつ子どもの不適切な行動を改善していくためには、根気良く繰り返し教えていくことが重要だとされています。「パニック状態が落ち着けばとりあえず安心」と思ってしまいがちですが、その一歩先に踏み込んで、何がダメだったのか、次に同じような状況になった時はどう対処したらいいのかを繰り返し伝えていくことが大切だと考えます。
【間違いを受け入れられず引きずる】
この事例については先ほども簡単に触れましたが、ある漢字が他の漢字と合わさることで読み方が変わるといった場面に遭遇した時、「この漢字の読み方は○○のはずなのに、どうして違うんだ!」と突然怒りだす子がいました。この時きっかけになったのは「兵役(へいえき)」という言葉です。「役」という漢字は単体では「やく」と読むのが基本ですが、「兵」と合わさることで読み方が「えき」に変わります。本人は学習意欲の高い生徒のため、自信を持って「へいやく!」と発言してくれました。ところがそれが間違っており、いつまでも引きずってしまいました。
このような学習意欲の高い生徒ほど、失敗を恐れたり1回の間違いをいつまでも忘れられずにいるように思います。「まあ、いっか」と受け流すことができない本人が一番苦しいのだと思います。自尊心を傷つけずに間違いを指摘するというのはとても難しいことですが、怒らせたくない・不機嫌になられたら嫌だなと、間違っていることをそのままにしておくことはできません。
「おしい!実はこの言葉は「へいえき」って読むんだよ」と指摘した途端、表情が徐々に曇りだすので、すかさず「でも「役」っていう字が「やく」って読むっていうことを知っていたから、それを思い出して発表できたんだよね!」とフォローを入れ、読み方を間違えたというところから漢字の読み方を知っていたから発言できたというところに意識を向けさせます。そして「そもそも役っていう漢字を知らなかったら予想して答えることもできなかったよね。じゃあ今日は「役」のもう一つの読み方「えき」を覚えてみようか!」というように、本人の学習意欲の高さを活かしたフォローを入れます。すると本人の意識が「失敗」から逸れたのか、「なるほどそういう読み方もあるのか」と納得してくれました。
以前同じような状況になった時、私は「大丈夫だよ!間違えてもいいんだよ!」という声かけをしていました。ですが、本人にとっては全く大丈夫ではなく、こだわりの強い生徒にとって間違いは最も避けたいものです。そのことに気づかず、配慮の足りない言葉かけをしてしまっていました。このような生徒と接していて思うのは、前向きになれるポジティブ言葉のバリエーションを増やすことが大切だということです。教育現場ではただ単に「すごいね」「頑張ったね」と褒めるのではなく、何がどうすごいのか・何を頑張ったのかを具体的に褒めることが大事だと言われています。ASDの子どもに対してはそれにプラスして、間違いや失敗へのフォローを入れつつ、本人の取り組みを丁寧に見取り、前向きな言葉をかけることが求められるのだと気づかされました。
こだわりや困難さの種類や度合いは人それぞれ
ここで述べてきた「こだわり行動」やASDの特徴は、すべてのASDの子どもに見られるものではありませんし、その困難さの度合いも人それぞれです。一人ひとりと深く関わってみて初めて、障害にも個性があるということに気づかされます。文献等で扱われている対応方法が上手くいく場合もあれば、そもそもその子の特性がASDの一般的な特性に当てはまらないこともあるかもしれません。障害児と関わる教師に求められるのは、一人ひとりの特性をよく観察し、個別の対応を充実させることだと思います。学習上、生活上の困難を少しでも緩和させるために、より良い支援方法を生徒たちと一緒に見つけていきたいと思います。