私は現在、中学校の特別支援学級に勤務しており、国語科の授業も担当しています(私の専門は他教科です)。生徒の学習の様子を見ていると、国語科の4つの技能「読む・書く・聞く・話す」のうち、読むこと・書くこと・聞くことについては、小学校までの基礎がある程度身についており、スムーズに学習に取り組むことができますが、「話す」ことについては難しさを感じる生徒が多いように見受けられます。
また別の教科で、バラバラにした4コママンガを起承転結に沿って並べ替えるという学習をしたときに、どのコマが物語の始まりで、どこがオチなのかということを想像することが難しいという実態を目の当たりにしました。
そこで、国語科の学習を通して、想像力や話す力、起承転結を意識しながら物語を読む力を鍛える必要があると考え、それに適した教材を開発しようと考えました。
ヒントとなったのは「ローリーズストーリーキューブ」
「ローリーズストーリーキューブ」というゲームをご存知ですか?各面に様々なイラストやマークが描かれた9つのサイコロを振って、出た絵をもとにお話を作っていくゲームです。説明書の冒頭には「無限の遊び方がある」と書かれており、細かなルールが設定されていないため自由度の高いゲームです。例えば、「むかしむかし…」というフレーズから始めて、全ての絵が上手くつながるように物語を想像していきます。物語のオチはあってもなくてもOK。自由にオリジナルの物語を作っていきます。
各面に書かれているイラストやマークは顔や動物、植物、日常生活でよく目にする道具など、小さな子どもでも何のイラストなのかがすぐに分かるものがほとんどですが、一部「これは何だろう?」というものや、見方によっては違うものに見えてくるイラストもあります。個人の自由な発想や解釈によって何通りもの物語を作ることができ、それを他者に説明することもこのゲームの面白さの1つです。子どもたちの想像力や話す力を鍛えるのに大変効果的な知育教材です。
ローリーズストーリーキューブ自体を1つの単元として扱うのではなく、授業の冒頭10分程度で学習のウォーミングアップのような感覚で毎時間継続して行うことを理想としていました。
そのまま教材として導入できるか
このゲームを授業の中に導入しようと検討した時、担当する生徒たちの特性や実態に照らしてみるといくつかの懸念がありました。
・慣れるまでにかなりの時間を要するのではないか
軽度であっても知的障害や学習障害をもつ子どもは、読むことにも書くことにも話すことにも時間がかかります。聞く場合も、一度では聞き取れなかったり日常会話のスピードについていけなかったりすることがあります。また、1つのことに慣れたり習慣化したりすることにも時間がかかります。
このゲームを授業の一部に導入することの目的は、「自分で物語を考えることができた!」「それを伝えることができた!」という成功体験を積ませ、自信をつけさせることです。
この活動自体が生徒にとって「すごく難しいゲーム」になってしまうと「習慣化」というところにたどり着くまでが大きな壁になってしまいます。(もちろん活動が定着するように反復練習を繰り返すことが学校教育においては重要なのですが…)
サイコロ9個をいっぺんに使って物語を作るのは難しいので、まずは2〜3個から始めてある程度ゲームに慣れてきたら個数を増やしていく方法が考えられます。
・学校の予算的に複数個購入するのが難しい
とりあえず1セットだけ購入してサイコロを分け合いながら使ってみようと思いましたが、当然数が足りないと何もできずに待つ生徒が出てしまいます。では人数分購入しよう!と思っても学校の予算にも限りがあるのでそれは難しいのが現状です。
・カラフルでやわらかなイラストの方が馴染みやすそう
これは個人的な感覚です。実際のローリーズストーリーキューブは白地に黒い線で絵が描かれているので、カラフルだと可愛らしいかなぁと思いました。(ネットで調べてみると、アニメのキャラクターをモチーフにしたサイコロも販売されているようです。)
(私が担当している生徒の実態に則してみると)販売されている形のままでは導入が難しそう…ならば自分でアレンジしてみよう!ということで絵カードを作ってみたわけです。
「カラフルで可愛い!」
絵をwordに貼り付けて印刷し、ラミネートした手作り絵カードです。大きさは4cm×4cmくらいです。全部で60枚作成しましたが下の写真はその一部です。
イラストは「いらすとや」さんのフリー素材を使用させていただきました。使用したイラストは、ローリーズストーリーキューブに描かれているイラストやマークに沿っていますが、「このイラスト使えそう!」というものも追加しています。初めてカードを見せたとき、生徒からは「カラフルで可愛い!」「この絵が好き!」という声が上がり大好評でした。
物語作り以外の使い方で授業が活気づいた
絵カードを箱に入れ、くじ引きの要領で引いて出た3〜4枚のカードを使って自由に物語を作る活動に挑戦しています。しかし、「自由に想像して」とは言っても物語を作るのは簡単なことではありません。特に子どもたちは「オチ」や物語の落としどころを作らなければいけないという意識が強いようで、ゲーム感覚で取り組むまでにはもう少し時間がかかりそうです。
物語作り以外にも、この絵カードの活用方法は様々あります。今子どもたちが熱中して取り組んでいるのがこの絵カードを使った「スリーヒントクイズゲーム」。1枚の絵についてのヒントを3つ考え、クイズを出題するというゲームです。例えば「リンゴ」の絵ならば、「色は赤です」「形は丸いです」「果物です」といった3つのヒントを出して何の絵かを回答者に想像させます。
出題者は絵に描かれているものの名前を出さずにそれを説明しなければならないため、想像力を働かせ、且つそれを言葉にして説明する力が鍛えられます。回答者は説明をしっかり聞いて、何についての説明をしているのか想像力を働かせます。出題者も回答者も、それぞれが達成感を得られる活動です。
全員に絵カードを1枚ずつ引かせ、3分ほどでヒントを考えさせ、順番にクイズを出すという流れで実施していますが、1回の活動が短時間で完結し、すぐに結果が出るのがこのゲームの利点だと考えます。あっという間に1周が終わるので、「もっとやりたい!」「もう1回やろう!」「先生もクイズ出して!」という声が毎回上がります。この、「もっとやりたい!」という気持ちで活動できるのが何より理想的ですし、授業者である私もとても嬉しいのです。
既にある教材やゲームからヒントを得る
生徒の実態を把握し、どんなことに躓き、どんな力を育てる必要があるのかを考えたとき、それをサポートしてくれる教材やゲームは山ほど存在しますが、それが目の前の生徒にそのままフィットするかというとそれは難しいのが現実です。しかし今回の教材開発をしてみて、思わぬとこをに教材作りのヒントが潜んでいることもあるのだなと感じました。絵カードを使った物語作りに慣れてきたら、ローリーズストーリーキューブも授業に導入しようと考えています!