本当に怠けているだけ?夏休みの宿題が終わらない子どもへの対応

まもなく年度末。学校によっては春休みに宿題が出されるところもあるかと思います。

やや季節外れなタイトルではありますが、長期休業中の宿題が終わらない(終わらせられない)子どもへの対応について、私の経験をまとめてみようと思います。

そもそもなぜ宿題が出るのか

「先生!宿題ってどうして出されるんですか?」

と子どもから聞かれた時、皆さんはどう答えているのでしょうか。

逆に「どうして宿題が出されるんだろう?」と、誰もが一度は子どもの頃に考えたことがあるのではないでしょうか。

私は「学校が休みの間も家でちゃんと勉強してほしいからだろうな」と思っていましたが、教員…というより社会人になってみて、宿題の目的はそれだけではないなと思うようになりました。

夏休みの前半に全ての宿題を終わらせてその後は自主的に勉強をする子もいれば、早く終わらせた後は部活や遊びに時間を費やす子、夏休みを満喫しきって最後の最後に必死で宿題に取り組む子。過ごし方は様々です。要は、学校から出された宿題は「少なくともこれだけは勉強してください」という最低ラインの分量であって、大事なのは課された課題を期日までに仕上げて提出することだと思うのです。

本当に怠けているだけだろうか?

以前高校で担任した生徒に、提出物を期日までに出せない生徒がいました。長期休業中の宿題に限らず、日頃のちょっとした課題や保護者から預かる書類も含め、とにかく全ての提出物が遅れるのです。そういった生徒は決して珍しくなく、「遅くまで遊んでいて宿題を忘れていた」とか「そもそも親にプリントを渡していない」なんてことも高校生になると増えてきます。「終わらせたのに家に置いてきてしまった」という理由も、いささか先生には信じてもらえないことも多い理由ですが、大人だってそういう失敗をすることもあります。ですが、その生徒は放課後遊び呆けているわけでも、保護者とのコミュニケーションが取れていないわけでも、毎回家に置いてきてしまうというわけでもありませんでした。

あまりにそういう状況が続くので、ご家庭にもお願いして「今日こういう課題が出ていて、来週までに提出なので声をかけてあげていただけますか?」と協力をお願いしたり、「今日こういうお手紙を配布したので必ず目を通してください」と逐一連絡をするようにしました。幸いご家庭の方も大変協力的で、学校と家庭の両方からその生徒に働きかける関係をつくることができていました。

それでも、宿題を終わらせることができません。それどころか、終わっていないことを誤魔化すために何かと理由をつけ、それを悟られないように更に嘘を重ねるといった悪循環に陥ってしまいました。

放課後や家での過ごし方をそれとなく本人に聞いてみると、「宿題をやっているけど終わらない」と言います。宿題が終わらないのではなく、この生徒には「終わらせられない」何かしらの理由があるのかもしれないと考えるようになりました。

計画通りに進まない理由

長期休業前、特に小学校では「夏休みのしおり」のようなものが配られ、生活目標を立てたり、宿題や過ごし方の計画表を作ったりすることがあると思います。

中学生になると、定期考査のたびに学習計画表のようなものを作り、実際にどれだけ勉強したかを記録に残すということも行われるようになると思います。

ですが、事前に立てた計画通りに進められない子どもは決して少なくないと思います。(私もその一人でした)

特に定期考査の学習計画表が頓挫してしまう背景には、

①スタート(今日)からゴール(試験当日、提出日)までに残された時間の感覚が薄い

②ゴールまでのペース配分が分からない

といった原因が潜んでいるのではないかと思います。(当然、そもそも学習に前向きではないから計画通りにいかないということも考えられますが、それについてはここでは割愛します)

この2つの原因が、宿題や課題を終わらせられないということにも関係するのではないかと考えました。

特別支援教育に学ぶ

ADHD(注意欠陥多動性障害)は、年齢に見合わない「不注意さ」・好きなこと以外に対する集中力がなくなり、興味や関心を示さなくなる「多動性」・思いついたことをよく考えずにすぐに行動に起こしてしまう「衝動性」の3症状を主な特徴とする生まれつきの精神疾患です。その特徴の一つに、「忘れ物が多い・失くし物が多い」というものがあり、不注意の傾向が強い場合に見られると言われています。

その対策として、メモをとる習慣をつけたりチェックリストを作ってやるべきことを「可視化」したりといったことが挙げられています。

1日の流れや活動の順番を可視化するというのは特別支援教育でよく見られる方法です。冒頭で触れた宿題を終わらせることができない生徒は、見通しを持って課題を進めることに困難を示す傾向が強いのではないかと考え、学習計画が頓挫してしまう原因2つ(①スタートからゴールまでに残された時間の感覚が薄い、②ゴールまでのペース配分が分からない)と、「可視化」を掛け合わせた物をこちらで作成してみることにしました。

当時作成した宿題計画表を再現したものがこちらです。

1日にどれだけの分量をこなしていけば最終日に間に合うのかを表にして渡しました。

1日にこなす宿題の量を少なめに設定したり、友達と遊びに行ったり家族で出かけたりする日もあるはずなので「何もしない日」を作ったりするなど、無理なく取り組めるスケジュールを本人と相談しながら立てました。また、その生徒は1つの教科を長時間、数日に渡って取り組むことを苦手としていたので、同じ教科が続かないように配慮しました。ご家庭の方にも計画表を見ていただいて、予定通りに進んでいるか確認していただきました。

「高校生なのに1日にこれだけ?」と思われてしまうかもしれませんが、進学校ではなかったので学習のペースはとてもゆったりです。それでももっと勉強すべき!という意見もあるかと思いますが、まずは宿題を期日までに出すことが目標でしたので、

・1日にどれだけ取り組めばいいのか

・今日から夏休み最終日までに残された時間はどのくらいか

・どんなペースで取り組めば期日までに終わらせることができるのか

を意識させました。

成功体験が学習意欲につながる

上記の宿題計画表に沿って宿題に取り組んだ結果、その生徒は初めて期日通りに全ての宿題を提出することができました。夏休み明けの朝、とても清々しい表情で自席に着く生徒の表情は今でも鮮明に覚えています。当時その生徒が毎回提出日を守れないことについては学年でも問題になっていたのですが、全て提出できたことを朝のうちに学年の先生たちに報告すると、学年の先生たちから頑張りを褒めてもらえたようで、その生徒はとても嬉しそうにしていました。

後日、保護者の方と今回の成功体験についてお話したところ、その生徒は小学生の頃から宿題の取り組みが遅く、その度に注意を受け、放課後の居残りの常連だったそうです。「毎日決まった時間に机に向かって勉強に取り組めたのは初めてです」と、保護者の方も大変安堵されていました。

その後も課題が出るたびに一緒に計画表を作りました。計画表を使った学習に慣れてきてからは、自分で自分の予定を立てさせるようにしました。自分で立てた予定通りに課題をこなし、期日通りに提出できたという経験が学習意欲につながったようでした。

大人にも求められる「計画力」と「主体性」

2006年に経済産業省が「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を「社会人基礎力」として提唱しました。

「前に踏み出す力〈アクション〉」「考え抜く力〈シンキング〉」「チームで働く力〈チームワーク〉」の3つの能力に、さらに12の能力要素が設定されています。その中に「主体性〈物事に進んで取り組む力〉」「計画力〈課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力〉」が含まれています。「主体性」については、新学習指導要領でも「主体的に学習に取り組む態度」というかたちで重要視されています。

今回取り上げた「夏休み(に限らず長期休業中の宿題)が終わらない子ども」への支援は、小学校段階から行われる必要がありますが、今回の事例のように高校生であっても支援が可能です。一人ひとりの苦手なこと、困難さを把握し、様々な手立てを考え実行することが大切だと気づかされました。

「やらなければいけないとわかっているのにできない」と苦しんでいるのは子ども自身です。先生の一工夫で長年の悩みや躓きが解決に向かうこともあるのだと私自身も実感した事例です。今後も個に応じた支援の在り方を勉強していきたいと思います。

自己紹介

はじめまして、SHIROと申します。

私立高校で専任教諭として勤務したのち、大学院での研究期間を経て、現在は公立中学校の特別支援学級で勤務する傍ら、不登校や学校不適応など様々な課題を抱える子どもたちを支援する活動をしています。

大学時代より公立小学校で授業補助や放課後個別指導教室の運営などに携わってきました。

教員歴はまだまだ7年と未熟者ではありますが、大学時代からの活動を含めると10年ほど教育業界に携わっていることになります。

本業は中学・高等学校の教員ですが、私立、公立、小学校、特別支援教育など幅広い校種、環境を経験してきました。

その経験を綴る中で教育関係者の方々のみならず保護者の方々、将来教員を目指す学生さんたちとも情報共有ができたら、と思いブログを始めました。

教員としての「自由な働き方」を求めて

冒頭でも触れた通り、今は公立中学校の特別支援学級に勤務しているのですが、

雇用形態は「講師」です。

以前は専任でバリバリ働いていたのですが、教員5年目の夏、当時の自分の働き方に疑問を感じるようになりました。

教員1年目から不登校や学校不適応など様々な課題を抱える生徒が多く在籍するクラスを担任しました。

その後も家庭環境に課題がある生徒、発達障害をもつ生徒、人間関係の形成に困難を示す生徒などを担任することが多く、個を深く理解することや、個に応じた支援をすることが求められました。

「生徒一人ひとりと向き合うこと」の大切さを痛感する日々の中でふと、

「自分のクラスの生徒なら自分がサポートできるけど、学校生活に悩んでいる生徒は他にもたくさんいる」

という考えをもつようになりました。

教員という立ち位置に拘らず、困っている子どもたちを広く支援する仕事がしたい、と思うようになり、初任から務めた学校を退職し、大学院に進みました。

大学院に進んだ目的はいくつかありますが主に、

・大学時代から取り組んできた研究テーマをまとめたい

・教育学や教育心理学、カリキュラムマネジメントなど広く教育について学び直したい

といったところです。

特に後者の学び直しを通して、自分が新たに見つけた

「教員という立ち位置に拘らない子どもたちへの支援」の在り方を見つけたいという思いが強かったです。

そして(大学院での活動については改めてどこかで書くこととします)いろいろなご縁が繋がって今の学校に出会います。

特別支援教育はいつか携わってみたいと思っていた分野だったので、毎日やりがいを感じながら職務にあたっています。

30代を目前にした新たな選択

専任から講師という立場に変わって、心境にも様々な変化がありました。

もちろん、専任に比べると講師は雇用形態が不安定なので、時々漠然と

「私はこれで大丈夫なのか」と思うこともありますが、メリットも多いです。

自分の時間が増える

専任に比べて講師は1日の勤務時間も仕事の量も少ないです。

空いた時間の使い方は自分次第です。

教材研究に多くの時間を費やすことができるようになりましたし、冒頭でも少し触れている不登校支援の仕事との両立も可能になりました。

1回1回の授業の質を高めることは生徒の満足度を高めることになりますし、何より自分のためにもなります。

別の仕事との両立も、ブログの執筆も、以前のような働き方をしていたら叶わなかったことです。

「教員という立ち位置に拘らない子どもたちへの支援」はまだまだ模索中ですし、これから様々な経験を積む中で自分らしい働き方を確立していく必要がありますが、この選択をしなければ出会えなかった人、できなかったことがたくさんあります。

今後も教員という本業に軸足を置きながら、様々な活動をしていきたいと思っています。

自身の経験や取り組み、教育関連のトピックを配信していきますので、このブログが一人でも多くの方の目にとまれば嬉しいです。